ロングステイの適地について
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佐原 律夫 |
定年後の自由な時間を、自分のために楽しく過ごす方法のひとつとして、ロングステイを
する方が増えています。今後ますます増加すると予想されています。年金で楽しい生活を夢
見てロングステイを始めましたが、現地の生活習慣になじめず交流もままならずに、さびしい
思いで予定より早く帰国する方もおります。ツアー会社が全てお膳立てしてくれるガイド付き
の楽しい旅行の再現は、ロングステイの場合は自分自身で実現しなくてはなりません。その
為には自分がその国で何をしたいのか、目的をしっかり持ち積極的に現地に溶け込んで生
活することが必要です。観光だけが目的でしたらツアーで参加するのが楽で、楽しい旅とな
ります。ただし当然経費が高くなります。
ロングステイの適地は、個人の生活スタイルと趣向によっておのおの異なります。ですか
ら適地を選ぶには体験者から情報を得たり、または現地に下見に行ってから決めるのが大
切です。私がロングステイの適地として選ぶ条件の第一は、その国が安全で治安がよいこと
です。安全に暮らすには、その国が平和で日本と親交があり、日本人が歓迎される国であ
ることです。そのため私も海外では趣味を通じて交流を深め、より親善になるように努めて
おります。たまにロングステイ先の街の路上やレストランで、現地の知人と偶然遭遇して声
をかけてくれるとうれしくなり、安心します。
また外国でロングステイすることにより、いっそう日本の良さも再発見できます。海外での
ロングステイが体力的にも、金銭的にも難しくなったら日本でのロングステイに変更する夢が
膨らんできます。ロングステイ適地の一つとして(財)入国協会発行の公報誌「国際人流」7
月号にクライストチャーチでのロングステイについて寄稿しましたところ、全国から読んでみた
いと問い合わせがありますので寄稿文をお知らせいたします。これからも私が体験した他の
適地も「国際人流」に寄稿したいと考えております。寄稿文が定年後のロングステイの夢を
お持ちの方に少しでも参考になれば幸いです。
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ガ−デン・シティ、クライストチャーチでの
ロングステイ(ニュージーランド)
佐原 律夫
「国際人流」2008年7月号掲載 発行(財)入国管理協会
(本の注文は TEL 03−3291−8081 )
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1.花と緑の町クライストチャーチ
クライストチャーチは、南島にあります。人口約35万人で、北島のオークランドに次ぐニュー
ジーランド第2の都市です。別名ガーデン・シティと呼ばれ、花と森に囲まれた美しい町です
。スポーツ等のアクティビティも盛んです。私はスポーツが好きで、テニス大会にも出場できる
こと、妻は花が好きなので、クライストチャーチにロングステイすることにしました。私は2003
年から毎年夏の時期に約3ヶ月滞在し、今年は6回目です(ちなみにNZはビサなしで3ヶ
月間滞在することができますが、18ヶ月以内に滞在できるのが9ヶ月間という制限がありま
す)。今ではNZの自然の魅力とキュィ(ニュージーランド人は自分たちのことを国鳥のキウィに
ちなんで、こう呼びます)の国民性と文化を知り、ますます惹かれています。これからも健康
である限り、クライストチャーチでのロングステイは続けたいと思っています。
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クライストチャーチの住宅街。庭には花が咲き乱れています
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2.ニュージーランドの生活事情
(1)気候
日本と季節は正反対ですが、酷暑や厳冬のない温暖な気候に恵まれ、夏は最高28度
前後で爽やか、冬は東京に近い気温です。南北に長い国で南に行くほど寒くなり、三日月
も日本と逆で右が欠けて不思議な感じがします。
(2)物価
食料自給率100%の農業国です。農産物は日本より安く特に牛肉は日本の約半値で
す。電機、自動車の多くは輸入で割高です。
私は自炊ですが、食料品が安く果物の種類も多く助かります。日本食材を扱っている店も
あり不便は感じません。私達はお互い好きな事をして楽しむので、家事も協力して行い、お
互い負担をかけない気遣いが必要です(NZの家庭では当然のことですが)。
(3)治安、医療と交通
治安も良く安心です。人々は目が会うと、必ず挨拶します。医療情報も充実し、医療施
設が完備され、衛生上の問題も特にありません。交通は、バス路線が網の目のように整備
され、市中心部には無料循環バスも走っていて便利です。レンタカーも利用しています。車
は日本と同じ左側通行で、運転マナーも良く歩行者が横断しようとするとほとんど止まりま
す。歩行者も笑顔で挨拶して通ります。なかなか日本ではない光景です。
(4)住まい
住宅は庭と木に囲まれ公園の中にある感じです。大きな木は市の台帳に登録されており
勝手に切ることができません。ニュージーランド人は、古い家も修理して使います。窓やドア
に隙間があっても気にせず暮らす家族もいます。最近の高層アパートや住宅はシステムキッ
チンや最新設備を備えていますが、洗浄便座(ウオシュレット)は普及していません。ただ最
新設備の高層アパートや家は賃貸料も高く、週400ドルから600ドル前後(NZ$はおよそ
81円)です。最近は家を見て借りたいとモーテル等に数日住み、不動産業者と交渉して
借りる方も増えました。
水道は氷河の水で、おいしく飲めます。水道料金は無料、電話も市内通話は無料。電
気は有料です。
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3.盛んなアクティビティ
大人も子供も、余暇はいろんなアクィテビティを楽しんでいます。スポーツの盛んなNZでは、
有名人といえばラグビーのスター選手を筆頭にスポーツ選手です。ゴルフは授業にもなって
おり、ゴルフ場で授業中の中学生、高校生と一緒になる時もあります。
(1)ゴルフ
人気の理由は料金の安さと手軽さです。多くのゴルフ場は予約なしでプレイができ、服装も
自由でスニーカーでもOK。設備の質の高いコースは、予約や襟のついたシャツが必要なとこ
ろもあります。グリーンフィーも15ドルから80ドルと破格です。メンバーフィーは月80ドルか
ら200ドル位で加入できます。毎日散歩気分でゴルフ三昧の生活をしている方もいます。
(2)テニス
メンバー制のクラブが主で、専用コートとクラブハウスがあり、ビジターも1回5ドル、メンバー
は月50ドルから80ドルで加入できます。
(3)ハイキング
国中至る所にハイキングコースがあります。老若男女、脚力に合わせて、それぞれ楽しむ事
ができます。 |
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アーサーパス国立公園ハイキング、山頂には氷河も見えます |
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4.クライストチャーチと近郊の観光
(1)クライストチャーチ
英国以外で最も英国的な街といわれています。
見所の出発地は市の中心にある大聖堂です。毎年2月には世界的に有名なフラワーフェ
スティバルが開催され、大聖堂の境内が花で飾られ観光客を魅了します。大聖堂広場か
ら徒歩10分で国内最大級の植物園があり、多種多様な植物が植えられています。植物
園に隣接して広大なハグレー公園があります。公園に近いモナ・ベール邸は美しい庭園とバ
ラ園で有名です。市内を流れるエイボン川ではパンティング(舟遊び)もでき、水の透明度と
鴨の多さに驚かされます。
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街の中心にある大聖堂と広場 |
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エイボン川のハンテング観光、結婚式もします |
ゴンゴラの山頂よりリトルトンの港を望む |
市内を走るトラムに乗れば、英国風の町並みを楽しめます。ゴシック風建物のアートセンタ
ーで、郷土みやげや芸術品を買うこともできます。また、郊外では、ゴンドラに乗ってホートヒ
ルの山頂に行けば、リトルトン港、ハングス半島を見渡す大パノラマを望めます。
(2)クライストチャーチ近郊
南島のサザンアルプスの山々が連なり、数多くの観光と体験ができます。
@マウントクックは、南島の最高峰。クライストチャーチからマウントクックまでの道の
りには真っ青な水をたたえた湖、テカポ湖という見所もあります。
A アーサーズ・パス国立公園のハイキングでは、流れ落ちる滝や高山植物が見ら
れます。アーサーズ・パスまでの道の途中では映画「ナルニア国物語」のロケ地である、フロッ
クヒルやレイクピアソンにも立ち寄ることができます。
B マウントハットは冬のスキーのメッカ、夏は近くの「ロード・オブ・ザ・リング」でローハ
ンの人々が住むロケ地エドラスの丘も訪れるといいです。マウントサマーズ近郊の原生林の
ハイキングもお勧めです。
Cハンマー・スプリングスの素晴らしい森林遊歩道のハイキングを楽しみ、帰りに露天の温
泉に入って汗を流すのもいいです。ただし水着着用です。
5.国を超え、時を越えて広がる交流
ロングステイで大切なことのひとつに、その国の人々と知り合うことがあります。勇気をだして
話しかけることです。英会話が苦手な方は、現地在住の日本人会に加入してからでもよい
と思います。手芸、芸術、スポーツ等で得意分野があれば、交流の早道です。私はテニス
クラブに加入しました。クラブでは、80歳を超えた方でも仲間とテニスを楽しんでいます。NZ
ではテニスクラブは交流の場でもあるのです。テニスの後はクラブハウスでお茶を飲み、クッキ
ーをつまみながら、おしゃべりです。話好きな人が多く私はリッチ(律夫)、妻はサラ(幸子)と
呼ばれています。皆よく、「リッチは金持ちの名前か」と聞くので、「ラストネームはプァーだ」と
答えると、大笑い。お前はテニス選手でなくコメデアンだろうと切り返してきます。「キウィ」は、
とても明るくゆかいな人たちです。
私は、今年はNZマスターズ大会でテニスの試合に出場しました。3日間の大会期間中、
日本選手の会場への送り迎えから試合の面倒を見てくれたのが、マスターズに参加したテニ
ス選手のアランでした。最終日にはアランの家族も総出で応援にきてくれました。彼は、祖
父母がイギリス人で、彼の親の代で、NZに移住してきたのです。彼の祖父、アーサー・スタ
ンフォード・オルドリッチは、明治政府の招きで鉄道の技術指導をし、その功績で明治天皇
から勲章を授かったのだそうです。彼は、祖父が日本滞在中、日本人がとても親切だったと
聞き。それで日本が好きで応援していると、話してくれました。人の縁は国を超えて広がり、
時間も越えて受け継がれるだということを実感しました。
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明治天皇から宮内大臣経由でオールドリッチ殿に渡された勲章授与式の招待状です。参考までに写真をとってきました。 |
めずらしい表彰台での誕生日祝いの花束贈呈 |
私はマスターズ大会のダブルスで優勝することができました。メダル授与の表彰式はちょうど
妻の誕生日とかさなり、表彰式で花束の贈呈とハピーパスデイの歌声がわきあがりました。
妻は生涯最良の誕生日と感激していました。
アランは、今年、日本のマスターズテニス大会に出場たいとのことで、来日することになりまし
た。日本の鉄道の始まりに大きくかかわった人の孫である彼に、大宮に去年開館した「交通
博物館」を、ぜひ見せてあげたいと思っています。 |
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テニスクラブの仲間とテイタイム、手作りのデコレーションケーキもあります。 |
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